特定技能制度では、施行された2019年度時点で、特定技能の14分野それぞれの受入れ見込数が公表されています。
そして、今回初めて「産業機械製造業分野」で日本にいる特定技能外国人の数が受入れ見込数を超え、それに伴う措置として「在留資格認定証明書」いわゆる「ビザ」の発行が一時停止されました。
本記事では、今回の措置の内容と特定技能14分野それぞれの、受入れ見込数と現状の人数を解説します。
「産業機械製造業分野」受入れ一時停止措置の内容
2022年4月1日付で公表された「産業機械製造業分野」特定技能外国人の受入れ一時停止について、重要な5つのポイントを解説します。
はじめに、今回公表された措置の内容については、次のとおりです。
令和4年4月1日
出入国在留管理庁
特定技能「産業機械製造業分野」における在留資格認定証明書交付の一時停止措置等について
1 現状
産業機械製造業分野における特定技能1号外国人数は、令和4年2月末現在で5,400人(速報値)となり、受入れ見込数(5,250人)を超える状況となっています。
2 対応措置
受入れ見込数を超えることが見込まれる場合、出入国管理及び難民認定法第7条の2第3項及び産業機械製造業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針4(1)に基づき、分野を所管する行政機関の長(経済産業大臣)から法務大臣に対して在留資格認定証明書の一時的な交付停止の措置を求め、法務大臣において停止措置を講じることとされています。
令和4年4月1日、経済産業大臣から法務大臣に対し、入管法第7条の2に基づく在留資格認定証明書の交付停止措置の要請がなされたことから、本日、同条第4項に基づき、一時的に在留資格認定証明書の交付停止措置を採ることとしました。本日以降、在留資格認定証明書の交付を停止します。
なお、在留資格認定証明書の交付については停止しますが、他方で、特定技能1号への在留資格の変更及び在留期間の更新については、必要な要件を満たしていれば許可します。
参照 : 特定技能「産業機械製造業分野」における在留資格認定証明書交付の一時停止措置等について
それでは、5つのポイントを見ていきましょう。
①受入れ一時停止措置の開始時期
産業機械製造業分野では、2022年2月末時点で、日本にいる特定技能外国人の数が受入れ見込数を超過したため、2022年4月1日より、在留資格認定証明書は発行しない措置が開始されました。
②「在留資格認定証明書」とは
今回でてくる「在留資格認定証明書」とは、一般的に「ビザ」と呼ばれるもので、外国人が就労などを目的として日本に入国してくる場合は、日本の出入国在留管理よりビザを取得して初めて入国が許可されます。
そのため、今回の措置により今後、産業機械製造業分野では特定技能外国人を海外から呼び寄せることができません。
③日本国内にいる外国人は引き続きビザ取得の対象
今回の措置では、在留資格認定証明書のみが一時停止の対象とされています。
そのため、日本国内にいる技能実習生が産業機械製造業分野で特定技能ビザを取得する場合や、既に産業機械製造業分野で就労している特定技能外国人が、ビザ更新をする際には影響がありません。
※今後の経済産業省と出入国在留管理庁との協議内容によっては、国内人材のビザ申請も停止となる可能性はあります。
④既に申請中の案件について
産業機械製造業分野にて、既に「在留資格認定証明書」を申請中の件についても、出入国在留管理庁と経済産業省の今後の対応についての協議結果がでるまでの間、在留資格認定証明書の発行はされません。
⑤製造業協議会への加入申請について
製造3分野の特定技能協議会への加入申請は、引き続き行うことができます。
※今後の経済産業省と出入国在留管理庁との協議内容によっては、加入申請停止となる可能性はあります。
特定技能14分野の受入れ見込数と直近の人数比較

次に、特定技能14分野の受入れ見込数と直近の人数の比較表を作成しました。
それぞれ、気になる分野の「達成率」を確認してみて下さい。
分野 | 受入れ見込み数 | 2021年12月末の数 | 達成率 |
介護 | 60,000人 | 5,155人 | 9% |
ビルクリーニング | 37,000人 | 650人 | 1% |
素形材産業 | 21,500人 | 3,066人 | 15% |
産業機械製造業 | 5,250人 | 4,365人 | 83% |
電子・電気情報関連産業 | 4,700人 | 2,371人 | 50% |
建設業 | 40,000人 | 4,871人 | 12% |
造船・舶用工業 | 13,000人 | 1,458人 | 11% |
自動車整備業 | 7,000人 | 708人 | 10% |
航空 | 2,200人 | 36人 | 2% |
宿泊業 | 22,000人 | 121人 | 0.6% |
農業 | 36,500人 | 6,232人 | 17% |
漁業 | 9,000人 | 549人 | 6% |
飲食料品製造業 | 34,000人 | 18,099人 | 53% |
外食業 | 53,000人 | 1,985人 | 4% |
参照 : 特定技能在留外国人数の公表
※50%を超えている分野は黄色ハイライト
2021年12月末時点の表からは、分野によって達成状況が大きく異なることがわかります。
14分野の試験受験者と合格者数
次の表は、14分野の受験者数と合格者数の公表情報です。

参照 : 特定技能制度運用状況
表の情報を踏まえて、「達成率が低い分野」と「達成率が高い分野」について、考えてみます。
達成率が低い分野の試験合格率
達成率が特に低い、「宿泊業」と「ビルクリーニング」について、試験の合格率を見てみましょう。
宿泊業
宿泊業の試験は、試験合格者数は受験者の50~60%程度で、特に国内の試験合格者が多いことが特徴です。
データから見ると、国内にいる外国人で宿泊業の特定技能ビザ取得要件を満たしている人材は一定数存在すると思われます。
そのため、低い達成率の理由は単純に、特定技能外国人向けの求人数が少ないことが想定されます。
また、宿泊業は技能実習の移行対象職種でありながら、技能実習2号以上を修了しても、特定技能ビザを取得することができない例外的な職種です。
ビルクリーニング
ビルクリーニングは、宿泊業より合格率が低いものの、国内には試験に合格した外国人が一定数おり、宿泊業と似た傾向があります。
宿泊業とビルクリーニングに共通している点としては、どちらも技能実習の移行対象職種ですが、技能実習生の全体数からみると、宿泊業は0.1%、ビルクリーニングは1.5%と、技能実習生の数をみても他職種に比べて少ない職種であることがわかります。
達成率が高い分野の試験合格率
次は、達成率の特に高い、「産業機械製造業」と「飲食料品製造業」について、見てみましょう。
産業機械製造業
産業機械製造業は、今回公表されたように、2022年2月末時点では達成率を超えています。
試験合格率は、製造業3分野 (素形材産業、産業機械製造業、電子・電気情報関連産業)で、14分野の中でも最も低い合格率となっており、職種によっては、毎回の試験合格率が10%を下回る職種も珍しくありません。
上記を踏まえると、産業機械製造業分野での受入れ見込数達成の要因は、コロナの影響で技能実習生の入国ができず、国内にいる特定技能ビザ取得要件を満たした外国人が、埋め合わせとして雇用されていることが想定されます。
飲食料品製造業
飲食料品製造業では、試験の受験者・合格者が14分野の中で最も高いことが、データよりわかります。
受入れ見込み数が多いことからも、人手不足が特に深刻な分野であり、国内で試験に合格した他職種の技能実習修了者も含めて、多くの外国人が飲食料品製造業分野へ転職していることが考えられます。
まとめ : 受入れ見込み数の達成率には気を付けましょう
本記事で紹介したように、受入れ見込み数を達成した場合は、海外にいる特定技能外国人のビザ発給が一時停止される措置がとられます。
そのため、今後の受入れ計画を検討する際は、それぞれの分野の達成率も確認した上で進めるのがおすすめです。